男性保育士の育児日記

男性保育士による職場での出来事や、育児に関する事を書いた日記です。1年近く育児休暇を取った時の記録もあります。イラストは妻が描いています。

はじめての189

保育園にて、最後に園に残ってお迎えを待っていた年少の子がずっとマツケンサンバのサビの部分をリピートして歌っていたので、原曲をスピーカーで流して一緒に歌いながらお迎えを待っていました。

 

お迎えがきたので保護者の方に「マツケンサンバがお好きなんですね〜!歌っている姿がとっても可愛くて〜…」と話すと、

「え…そうなんですか!?そんなの聴いたことないのに…。」と驚いていました。

いったいどこで覚えてきたのでしょうね〜。子どもはすぐ覚えますからね〜。

 

 

さて、育休から復職し、もうすぐで1ヶ月が経とうとしています。

始めに注意書きですが、この記事は長文です。

 

約1年ぶりに戻ってきた保育園は、すっかり以前より雰囲気が悪くなっていました。

 

フリー保育士として色々なクラスへサポートで入りますが、人手不足・経験不足が露骨に表れており、先生たちはその日その日の保育を事故なく終わらせるので精一杯な様子。

 

残業量も以前より増して、疲れた顔や暗い顔をしている保育士が増えていました。

 

そんな中、いくつかのクラスでは看過出来ない問題も発生していました。

 

それが保育士による虐待行為です。

 

 

つい最近、ニュースで大きな虐待事件が取り沙汰されましたね。

あれには本当に心を痛めるばかりです。

しかし同時に、公表された虐待内容を見て、他人事では無いということが強く心に刺さりました。

 

公表された虐待内容は、それはもう保育士としてどころか、人としてあり得ない内容の物が多くありましたが、すごく酷い内容以外の中には私自身今まで現場で見たことのある行為も含まれていたからです。

 

 

少し話は脱線するのですが、一般的な幼児虐待のイメージと、保育士が気をつけなければならない幼児虐待の実態は少し異なるように思います。

 

一般的なイメージとしては、

・身体への暴力

・性的暴力

育児放棄

こんなところが一般的なのかな、と思います。

 

子どもの身体にアザがあるとか、何日もお風呂に入っていない、とかで気付かれるようなものですね。

 

それらは保育士的には、守って当たり前中の当たり前と言いますか、それが出たら一発通報のとてもヤバいケースっていうくらいの認識なものたちです。

じゃあ保育士が配慮せねばならない児童虐待ってどういうものかと言いますと、もっともっと細かな部分になるのです。

 

例えば、

・物事を強要しない

・子どもを1人にしない

・個人情報を守る

とかですね。

 

「虐待をしない」は当たり前で

「子どもの人権を侵害しない」という方向への配慮が大きい気がします。

 

そして「子どもの人権」という単語は、一昔前よりもずっと見方が厳しくなっています。

 

例えばアニメ「ドラえもん」でよくあったシーン。

宿題を忘れたのび太くんを先生が廊下に立たせるというシーンですが、

今それをやったら完全に児童虐待に含まれると思います。

 

「子どもの教育を受ける権利を、大人によって侵害された」という事だからですね。

 

そんな訳で、

保育士や教師による児童虐待というのは、家庭での親からのものより、より多くのケースが虐待と見なされる。

という事が言いたかったのです。虐待者を擁護する訳ではありませんが、様々な視点から虐待と見なされる事がある立場なのです。(勿論、昨今のニュースのような件は論外ですが)

 

 

話を戻しまして、私が自園で見つけてしまった虐待というのは以下のような物でした。

・子どもを怒鳴りつける

・言葉で脅す

・名前を大声で呼び捨てにする

・物を投げつける(安全な物ではあるが)

・無視をする

 

どれも保育士として、やってはいけないことばかりです。

ですが、やってしまった事のある保育士がほとんどだと思います。

白状すれば、私自身もやってしまった事がある物もあります。

 

子を育てている親御さんも身に覚えのある物があるかとは思います。

しかし、保育士としてはどれもNG行動です。

 

今回、私がそれを職場で最初に目にした時は、

「あぁ、あの先生、きっと全然余裕がなくてついやってしまったのだろうな。きっと後からフォローしたり、明日には態度が改まってくるだろう。」

という、少し同情のような気持ちがありました。

 

そういった事であれば私自身にも身に覚えがありますし、保育士も人間なのでミスを犯してしまうことはあります。なのでその場は黙って見逃していました。

 

しかし、何日か経つにつれ、どうも違う。ということに気付きました。

 

何日経ってもその保育士の態度に変化が見られない。

その保育士がいる時は明らかに子どもが萎縮してしまっている。

日が重なれば重なるほど、やってはいけない事をしている場面を多く見かけるようになったのです。

 

 

これはもうアウトだ。

どうにかしないといけない。と思いました。

しかし悩みました。

 

情けない事ですが、内部告発をするにあたり、どうしても自己保身を考えてしまったのです。

 

直接指導することの効果がどれほどあるのか。

上司に相談して本当に解決するのか。

効果もなく解決もしなかった場合、自分の立場はどうなるのか。

という事ですね。

 

育休から復職したてで今まで休んでいた人間にいきなり苦言を呈されて、果たして聞き入れられるのか。

告発したとして上司は自分を守ってくれるのか。

両方とも、今の自園の状況・人材を鑑みた時に自分の中ではNOだという答えが出ました。

哀しい事ですが今の自園には、指導を受け入れる余裕も信頼して話せる上司も皆無なのでした。

 

一度はこう考えました。

もういいじゃないか、なんでそこまで仕事のことで自分だけが悩まないといけない。

周りの保育士と同じように見て見ぬふりして、仕事とプライベートを分けて忘れてしまえばいいじゃないか。

 

 

しかし……それで犠牲になるのは子どもです。

保育士である以上、子どもの守護者でなくてはならない。この一線だけは絶対に譲ってはいけないのではないか。

 

なにか、なにか良い手段はないのか…と考えていた時に気付きました。

 

あ、「189(児童相談所虐待相談ダイヤル)があるじゃないか!」

 

内部解決が難しいなら、もう外部に言ってしまおう!

という考えに辿り着きました。

 

そこから、少し189について調べました。

対応方法・流れ・本当にバレないのか、などですね。

 

ネットでの調査ではあまり良い印象は得られませんでした。

児童相談所職員の仕事のブラックさ、対応に追われる余り告発者がバレてしまうような事を言ってしまう可能性もある…と言うのを知り、少し二の足を踏んでしまいました。

 

しかし、他に有効そうな解決方法も思いつかず、人間が行う以上はミスが出ても仕方ない!と割り切り、思い切って電話してみました。

 

私がかけたのは児童相談所の窓口対応時間外だったので、電話サポート専門の窓口の人へ繋がりました。

 

 

とても緊張しました。

 

虐待を内部告発するというのは言ってしまえば、「自分も見て見ぬふりをしていますよ」と自首するのと同じなように思えるからです。

 

電話に出たのは、なんだか疲れ切ったような声を出していた人でした。

声は静かで弱々しく、あまりリードしてくれず…。

おいおい、大丈夫なのか?と不安が増しましたが、一つ一つのこちらの説明に対して、「あぁぁ〜そうなんですかぁ〜」と深く驚くようなリアクションを毎回挟んでいたので、恐らくはそういった雰囲気で聞き取りをするようなマニュアルが存在するのだろうな、と思うことにしました。

 

一通り説明をし、向こうからもいくつか質問をされ、関係性について聞かれた時のみ「匿名でお願いします。」と伝え電話を切りました。

 

最後に「助かります〜。」と言ってくれていました。

マニュアルなのでしょうが、しっかり告発側に配慮してくれているようで少し救われました。

 

今後の流れとしては、近隣の児童相談所に相談内容が報告されて、対応に至るというもののようです。

 

 

少しだけ、ほんの少しだけ心のモヤモヤが晴れた気がしました。

しかし、自分で直接解決をせず、働く仲間である同僚を身売りしたような罪悪感は拭えず、ずっと暗い気持ちは続いています。

 

次にその同僚に会った時、私はいつも通りに対応が出来るでしょうか…自信がありません。

 

 

どうか今回私が動いた事で、子どもが救われて、同僚も反省して直せるよう努力をして、職場全体の雰囲気が明るくなっていくことを願います…。

 

 

長文にお付き合いいただきありがとうございました!

 

心象風景